【SS】イベント09 物語で見る各国の戦争準備状況(その1)

「ったく!また遅刻かよっ」

がちゃん、と乱暴な音を立てて、佐倉透はティーカップをソーサーの上に乱暴に置いた。
え~藩国の会議室には、先般の戦時動員を受け、藩王をはじめとして、
主だった国民が集まっていた…はずだった。
一分一秒でも早く、帝國内に現れた根源種族の兵器とおもわれる「シフとオズル」についての
対策会議をしなくてはならない。

なのに。

会議の予定時間から40分経過しても現れない、たった一人を待って、いまだに会議は始まらない。
「別にあんなヤツ待たなくたって、後回しでもいいじゃんか!」
と、言いたそうな顔をしていた佐倉に向かって、
「まあまあ、もうちょっと待ってあげようよ」
と、にっこり笑って主上が言うので、(注:え~藩国では国王を主上と呼ぶ)
結局、全員揃うまで待つことになってしまった。

とにかく無為に過ごす時間が大ッキライで、どうにもこうにも耐えられない佐倉は、
イライラとした様子で、机を人差し指でコツコツと叩き続けている。

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まわりでは、そんな佐倉の様子をみながら、主上以下一同、のんきにお茶を飲んでいる。

「でもさ~オレがゲットしてきた黄金のおかげでさあ、
うちの国、今度の戦時動員、上手いこと切り抜けたよね~。ヤッパ、オレってすごくね?ねえ、すごくね?」

ずずずず…。のんきに音を立てながら紅茶をすする主上。

「あんたは飛行場からの帰り道、道草してのーんびり散歩してただけだろーがっ!棚ぼたじゃい!!」

バチコーン!と山吹弓美のゴージャスハリセンがうなった。
よろける主上。
間一髪で紅茶のカップは机の上に戻されていた。さすが。

「誰かさんがのんきにオセロやってる間に、透さんが内職で頑張ってくれたからです」

優雅に紅茶をすすりながら、一柳鈴子もきっぱりと言い放った。
うなだれる主上。

「ウノ…勝ち逃げ…よくない…」うなだれたまま、ぶつぶつとつぶやいている。なんかコワイ。

「まあ、遺跡を見つけたのも、アーサでしたしねえ」

榊遊は、にっこりと笑いながら、ひざに抱いたアーサをなでている。
わふーん、と榊のひざの上でしっぽをふりふり甘えている。かわいい。
「アーサ、いいなあ」と、しょんぼりした目でアーサを見つめる主上。

みんなの紅茶のカップが空になり、新しい紅茶を淹れるべく、阿木高 麻緒が席を立とうとした時。
パタパタパタ、と会議室の前の長い廊下を走ってくる、小さな足音が聞こえてきた。
いち早くそれを聞きつけた佐倉のイヌミミが、ピンと立ち上がった。

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「遅れてすいませえん!」

ばったーん!というものすごい音とともに、会議室に飛び込んできたのは、辻井つなみだった。
イヌミミとしっぽが力なくうなだれ、はあ、はあと荒い息をついていた。

「あんたねーーーっ!なんでこんな大事な日にまで遅刻してくるのさっ」

佐倉はイヌミミとしっぽをぴんと立てたまま、辻井の下にマッハの速さで駆け寄り、
がしっ!とヘッドロックをかけた。

「うわあああああん!と、透さんやめてーー!これには理由がっ…!」

手に持っていたお菓子いっぱいの紙袋がぽろりと辻井の手からこぼれ、床にお菓子が転がる。
なぜか会議室内にいた福翠地鶏が数羽、お菓子に群がってくる。
会議室の中にいた全員が、ある意味、見慣れた風景を苦笑しながら見守っていた。

「ストーーップ!」

大きな声を上げながら、主上が2人の所にやってきて、地鶏に「ごめんな」といいつつ、
お菓子を拾い上げた。

「ほれ、佐倉も辻井を離してやれって」

主上に言われ、佐倉は、渋々という感じでヘッドロックをとく。
けほん、けほん、と目じりに涙を浮かべながら咳き込み、辻井は呼吸を整えた。

「辻井、なんで遅れたか、言ってごらん?」

主上がお菓子を丁寧に袋にもどしながら、辻井に尋ねた。

「えっと、会議に間に合うように、十分、余裕をもってお菓子屋さんに行ったんですけど…」
ごしごしと目元をこすりながら、辻井は続ける。
「お店に行ったら、そこのお客さんたちがみんなわっと集まってきて、
『あんた、今から国王との会議にいくんだろ?だったらコレを国王と会議に出る人たちに渡しておくれ』
って口々に言いながら、お店のお菓子を次から次へとラッピングしはじめてですね…」

そういって、辻井は主上のもつ紙袋から、ひとつお菓子を取り出した。
そのお菓子には、子どもの字で
『おかしをたべて、ぱわーをつけて、わるいひとたちをみんなでやっつけようね。ぼくもがんばる』
と、ひらがなで、たどたどしく書かれたメモがついていた。

「で、みんなのを受け取り終わるまで待っていたら、こんな時間になっちゃいました…。ごめんなさい」

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「ありがたいよねえ…」

いつの間にか自分の席に戻った主上が、お菓子を1つ、大事そうに手のひらにのせてしみじみと言う。
部屋の中がしんとしずまりかえり、それぞれが自分の席についた。

「うちはさあ、わりとのんきな国じゃない?お菓子がダイスキで、んで、地鶏とも仲良くしてて」

にこり、と笑って、主上は静かにテーブルにお菓子の包みを置く。

「国民もさあ、いつもお菓子を作って、食べて、お茶飲んで、陽気にしてて。
冬が厳しくても文句1つ言わないし。いい国だと思うんだ、すごく。
絶対、みんなを守りたい。オレは守りたいんだよ、この手で」

いつものんきで『昼行灯』と揶揄される国王の真価はこれだ。
いざというときには、全力で自分が正しいと思うことを為そうとする。

だから国民も、臣下も。
主上の限りなくのんきで、だらしない姿をみて苦笑はしても、決して見捨てることはない。
彼が正義のために、正しく力を使える人だとわかっているから。

「だからさ、こんな風に、おいしいお菓子にメッセージを託してくれる国民のために、
俺たちで出来ることを精一杯やろう」

肘掛に右腕をのせ、頬杖をつき、白い髪をさらりと揺らしてから、にやりと笑った。

「もちろん、剣の一本一本に『がんばって』と一生懸命書いてくださる、プリンセス・ポチのためにもね」

「はい」

部屋の全員が、大きな声で返事をする。

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「よろしい。んじゃ、会議はじめまーす。はい、あとは摂政の朝戸にまかせたー」

「はあ?なんでですかあ?」

口をぽかーんと開けてしばし脱力したあと、関 朝戸は力のない関西弁でつぶやいた。

「ん。オレ、こーいうの苦手なのしってるでしょ?だから、適材適所ってことで。
あ、とーるんも場をしきってねー。ヨロシク」

「ちなみに、お伺いしますけども。主上はその間、ナニやるんですか?」

佐倉が苦笑いしながら、書類を一同に配りつつ尋ねると、

「ん?オレ、オセロ~」

言うが早いか、バチコーン!と、早くも本日二度目のゴージャスハリセンがうなった。
さすが山吹。ツッコミ慣れてる…と部屋の皆は納得しつつ、書類に目を通しはじめた。
主上は鼻血が出たようで、「くすん」と小さく鼻を鳴らしてティッシュを探している。
その姿を目の端に捉えながら、「じゃ、会議はじめましょう」と、にこやかに摂政の関が口をひらいた。

戦時下だからこそ、平常心で。
それぞれの心の中では静かに闘争心が燃え上がっているけれど、一番大事なことは見失わないように。
功に逸ることなく、最善の道を選択できるように。

長い会議が始まった。


(イラスト・文:深山ゆみ(maru))

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