【SS】イベント09 物語で見る各国の戦争準備状況(その6)

青い士官服を纏った者達が並んでいる。その背後に歩兵やパイロットが続き、そう広くない藩国広場は今や、緊急招集された軍人で埋め尽くされていた。
 中には休暇中だった者もいるようで、一体何事かとざわめきが起こっている。
 その他方、どんな組織にでもいるような、いわゆる「情報通」たちが、冬の京で死者が出たことや、新型アイドレスの開発が始まったことなどを実しやかに囁いて、また別のざわめきを生んでいた。
 そして。
 そのざわめきが一瞬にしてぴんと澄み渡る。
 壇上に、摂政である関が登っていたからだ。見れば、執務時の摂政の纏う緩やかな装束ではなく、将校の正装――蒼い礼装軍服である。いつもはほったらかしの髪をオールバックで整え、普段はにこやかな表情が緊張の所為か、僅かに引き攣っている。

 誰もが、ただ事ではないと気付いた。
 そもそも、そういう格好をする人物ではない。いつもなら文族の佐倉にこき使われて、吏族の朝倉にげらげら笑われているはずだ。その二人も連れず、ただ一人壇上に立つ関を、広場にいる全員が、真剣な眼差しで見つめている。

 演台に向かい、マイクの高さを直し、関は両手を演台についた。
 深く息を吐く。何故自分がこんな大役をやらなきゃなんだろうと、考えた。考えて、それが自分の仕事だと思った。望んで得た地位ではなかったが、しかし、やる時にはやる、それがえ~藩国の心情である以上、逃げるという選択肢はなかった。それが己の責務ならば、全力で突破するのみだ。

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 関は顔を上げる。
「聞いて下さい。無理に集まってもらって、本当に申し訳ないと思ってます」
 尊大な態度が取れる度胸はなかった。こういうところが、皆が摂政に推薦するほど好かれる理由なのだろうが、本人にその自覚はなく、気が小さいだけだとたまに落ち込んでいる。
「ですが、主上の名代、え~藩国摂政として、言わせて貰います。
 既に聞いた人も居るかも知れませんが、冬の京で、根源種族と思われる敵との第一次接触、及び戦闘が起こりました。彼の国の英雄二人が死に、現在も敵は進行中です。
 わんわんは見方を見捨てない。正義にのみ忠誠を誓う国です。もうお分かりでしょう。我が藩国の、誇るべき【昼行灯】の皆さん」
 関は僅かに紅潮した表情で、広場を見渡した。広い――本当はそう広いわけでもないのだが、広く感じた。そしてそこを埋め尽くす兵員を、士官を、とても頼もしいものと思えた。
 関自体は、戦いが好きではないし得意ではない。ただ、何かを護りたい気持ちは、負けぬと思っていた。だから、そんな仲間がいることにとても安心する。
 唐突に、壇上に立つ恐怖が溶けていく。緊張感がほぐれ、仲間との一体感を感じる。それは、見渡した彼らの目全てに、昼行灯の薄い光が、強く輝くのを見たからかもしれなかった。
 自分も彼らも、真の昼行灯なのだという思い。
 表情を引き締め、声を高める。ふつふつと内側から沸いて来る力はしかし、目の前の彼らから与えられているのだと知った。

「我らは友を見捨てない! そのために全力を! 今まで研ぎ続けた牙を、狩りのためではなく、友のために使いましょう!
 総員第一種戦闘配置。接敵準備!」
 言い切って、関が見渡した時には、既に人影はない。遠く、駆け抜ける整備士のつなぎ姿や士官服の姿が見える。

 当たり前だと、関は思った。
 こんな話を聞くくらいなら、自分だってすぐに駆け出しているだろう。
 関はこれ以上ないほど晴れやかに笑うと、壇上を後にした。


(イラスト:関朝戸(科戸) 文:佐倉透(透))

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