【SS】イベント09 物語で見る各国の戦争準備状況(その3)

『昼行灯たちの灯』

 しん、と静まり返っている。
 それは喪に服すようであり、また、嵐の前の静けさのようでもある。どちらかといえば、後者の意味が大きかった。
「まさか……としか、言えませんわね」
 先に口を開いたのは、榊だった。沈痛な面持ちで、朝倉が頷く。この二人、吏族として、ある藩国の独立の為の調査を、天領の指示で行ったばかりであった。
 その藩国の名は、冬の京。
 先程、根源種族の兵器により侵略を受けていると、報告を受けた藩国である。歴戦の勇士が数多く所属することでも、名を知られた藩国であった。しかし、かの勇士を持ってしても敵は強大で、冬の京は一次接触戦闘で二人を失っていた。
 それゆえの、この沈黙である。
 え~藩国王城、国の運営を決める会議室は今、静かな緊張で満たされていた。建国以来、UNOだのオセロだの地鶏の追っ掛けだのをしてきた、陽気な――こいつらに国を任せて良いのかと本気で国民が心配するほどの――藩王とその側近たちは、皆、一様に口をつぐんでいる。
 特にショックを受けているのは、先述の二人である。
 その静寂を破り、藩王花井柾之は一つ息を吐いた。
「ポチ皇女から、火急の命が下った」
 その一言で、沈黙の色が変わる。哀しみの強かった全員の眼差しが、狼のそれに変わった。
 このままで済ませるものか。犬は狼であり、大神だ――そして狼は、群れで牙を剥く。
「我らは昼行灯だ。穏やかな日々に役立つ銃など無く、そしてそんなものの必要もない。だが、穏やかな日々を奪うモノがあるなら――
 戦場を無くすための力の一欠けとなろう。我らは正義の一端に」
 藩王の言葉に、全員がふと力を抜き、にやにやと笑った。元々、そう言い続けた藩王の下に集った一団である。躊躇う理由などどこにも無かったし、第一、こんな真面目な藩王を見ることなどなかったから、バカだなぁ、当たり前じゃないかと、笑った。
 しかしそれが、絶対の信頼と、承諾と、そして肯定だった。
 藩王は皆を見渡し、満足そうに一つ、頷く。それは王としての威厳を保ち、尊敬を集めるための鷹揚な物ではなく、むしろ、昔からの仲間に信頼の頷きを返す、そんな首肯。
「戦時動員の予算、及び燃料は、先日の冒険で賄えました。何とかなりますわ」
 吏族の榊が告げた。
 頷きを一つ返し、会議用の重厚な机に両手を突くと、藩王は勢い良く立ち上がる。
「ならば皆位置につけッ!
 朝倉、榊! 天領との連絡密に。出撃があるかも知れ……」
 ない、と続けて、ついと藩王が視線を向けた時には、吏族席二人分が空になっていた。会議資料も置きっぱなしである。
「え?」
 思わず呆けた声を上げる藩王花井。哀れになったのか、声をかけたのは摂政、関であった。付き合いの良さと城に詰めやすいというそれだけで摂政にされた彼であるが、え~藩国の謳う【真の昼行灯】であるということは間違いのない事実である。
「いえ、なんというか。確かに主上の格好良さにみんな喜んでましたし、士気も上がったんですけど。士気が上がりすぎたというか。皆、己の戦場に既に向かいました」
「うそ? てことは榊、言い逃げ?」
 藩王花井が周囲を見渡すと、既に会議室は己と関、大族であるどんぐりと阿木高、合わせて4人以外なく。
「大方、佐倉か山吹辺りがみんなを蹴っ飛ばしながら連れてったんだろ!」
 格好良く決めてたのに、と、少し泣きそうになりながら王が言うと、関は苦笑した。
「いえいえ。みんな自発的に、ですよ。主上の望む、真の昼行灯としてね」
 実際には、吏族は朝倉が榊を引っ張って行き、技族は『新I=D開発打診』の一文が資料にあったことに気付いた段階で、山吹、折口、深山、海清、揃って会議室を後にしていた。本当は関もその4人に続くはずだったのだが、摂政という立場上それをしなかったに過ぎない。文族はといえば、一柳と辻井は、冬の京と同時期にえ~藩国が行っていた冒険の報告書を恐ろしい速度で書き上げ提出窓口に叩き付けると、手が空いて暇だとぶつくさ言っていた佐倉を伴って、やはり己の持ち場に向かっていた。
 花井が残った二人を見る。どんぐりと阿木高の目に、青い炎が見えた。昼間も灯る、正義の灯。それは、早く仕事寄越せと言っている目でもあった。
 藩王花井はふっと笑った。とても満足だ。取り残されたことはまぁ、確かに気に入らないけれど、でも。
 ――これが俺の国で、俺の国民だ!
 胸を張って叫んでやりたい気分になって、藩王は、照れた。一人で照れている花井を、三人は奇異な目で見ていたのだけれど、彼はそれにも気付かなかった。
 一度咳払い。気を取り直し、緩んでしまう表情を引き締める。それでも緩んでしまうので、なんともふにゃふにゃの顔になってしまった。王犬アーサが馬鹿にしたように『わふん』と鳴いた。
 むっとアーサを睨み、そのおかげで完全に引き締まった凛々しい表情で、藩王花井は残った三人を見渡した。
「関、新I=D開発――と言ってもコンペだが、え~藩国技族の指揮を取れ。判断は任せる。文族は……奴らで勝手にやるだろうから良いな。吏族は天領から指示があるだろうから、こっちは帝國本陣からの指示待ちか……戦時徴収には参加できそうで助かった。
 大族、どんぐり、それから、阿木高」
 二人が息を飲み、じっと藩王を見つめている。ニッと笑って見せた。安心させるように、そして信頼を示すように。
「一般市民の避難誘導準備、及び食糧確保、任せる。手が空くようなら文族の手伝いを」
「らじゃっ!」
「了解です」
 更に二人に詳細な指示を飛ばし、花井は関を伴って会議室を後にする。後からアーサが駆けて来る。
 途中関がI=D開発方面へ別れ、そこからは、藩王と王犬、一人一匹のみ。小さな城の、広くはない通路を進む。
 己と、王犬のみになってから、花井は僅かに眉根を寄せた。アーサが心なしか不安げに王を見上げる。
 出来るなら、最後まで昼行灯でいたかったと、思う。みんなでUNOをやって、最弱佐倉を笑い飛ばして、やたら勝ち続ける一柳に恨み言を吐いて。一方で、オセロで俺最強なんて騒いだりして。そんな日々を、続けていたかったと、思う。
 それが崩された。ある種の予定調和のように。
 ――なら、取り返すだけだ。昼行灯が、「役立たずの昼行灯」でいられる場所を。
 目指すは藩王の王座。あらゆる報告、あらゆる連絡、あらゆる陳情が、日々山積する王の戦場である。
 藩王が顔を挙げ、力強く一歩踏み出すと、隣でアーサが満足そうに
「わん!」
 と鳴いた。

(著:佐倉透(透))

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