【SS】イベント09 物語で見る各国の戦争準備状況(その2)

え~藩国では、藩行事として、国民総参加の大々的なカーニバルが、一週間後に予定されていた。
そんな時、飛び込んで来たのが戦時動員開始の知らせである。
方々とたんに忙しくなり、カーニバルどころではなくなった。
淡々と、平凡に、客観的に何の感慨も無く、簡潔に完結する言い方で言うと、こうだ。


戦いの邪魔だから、カーニバルは中止された、と。


どんっ!
机を叩いたのは、この藩国の吏族、朝倉 景光(あさくら かげみつ)である。
「私はカーニバルの中止に反対です!」
「仕方ないんだよ。朝倉。…怒鳴るな。場をわきまえろ」
「子供達、あんなに楽しみにしていたのですよ!?それを今更っ!」
「仕方ないと言っている。それ以外の返事はない」
え~藩国の会議室。
召集がかけられ、多くの技族・文族など、主要なメンバーが既に集まっていた。
「………笑顔が、戦争などというくだらない物に負けるとでも言うのですか」
「その笑顔を守るための戦いだ」
「この藩国は、どちらも両立出来ると思っていましたが」
「空想だな。もしくは妄想だ。何度も言うが、我が藩国に現状カーニバルに割ける人員も金もない。時間もない」
「それをどうにかするのが大人でしょうが……!」
「大人だろうと何だろうと、出来る事と出来ない事があるんだ。俺は人類決戦存在じゃないよ」
「人類決戦存在はただの人です!」
「それじゃぁ、俺はただの人でないのかもな」
「戯言ばかりっ!!!」
この二人、さっきからこの調子である。
というか、朝倉が駄々をこねていた。藩王はそれを受け流しているのだろう。
かれこれ2時間ほどこんな感じで、全く話が前に進まない。会議を始めるにも至っていないのだ。
ついに、ずっと受け流していた藩王も見かねたか。
軽くため息をついて、切り出した。
「では、こちらから聞くが」
顔を上げる。目をしっかりと朝倉に合わせた。
静かに、そう、いつどこでどういう姿を見せても、これを見れば誰もがこの人が藩王なのだと、そう誰もが言い切る強さを込めた瞳で。
「呑気にカーニバルをやる金で、スタッフで、時間で、救える人がいる」
静かな、しかしはっきりとした、強い意思を感じる口調。
「それは戦地の者かもしれんし、被害がここまで及べば我が藩の国民かもしれん。それが誰なのか何人なのかも不透明で、正直に言うと全く分からない。誰も傷つかない可能性だってある。……しかし」
お互い、目を逸らさなかった。否、朝倉は逸らせなかった。
「しかし―――――お前は、後で後悔したその時、何と言う言葉を吐くんだろうな」
言った。言い切った。
「ちょ…藩王…」
非道とも言える言葉に、慌てて周りの者が止めようとするが、
「いいか朝倉。よく聞け。よく聞いておけよ。いつだって忘れるな」
止めることなど、誰にも出来ないのだ。
それが藩王の器。

「俺はな。………今見える涙より――――見えん涙の方が嫌いだよ」

嫌いというか怖いだな、と付け足して、
「俺は部屋に戻る。会議が出来そうなら誰か呼んでくれ」
藩王は戻っていった。強さと悲しみを背負っている背中を向けて。

「くそっ!!」
「朝倉君、落ち着きなさいってば」
「………少し風にあたってきます」
「あ、ちょ…」


城の外。
「ふぅ……」
朝倉も、頭では分かっていた。分かっているのだ。
ただ、脳裏をよぎるのは、子供達の顔。
ここ最近、藩の移動で娯楽も少ない。
本当に、それどころではなかった。少ないというか、正直なところ、全く無いと言ってもいいだろう。
毎日が、敵と自分と全てひっくるめての戦いだったのである。
だから。
その日だけは、どうしても皆に笑顔を取り戻して欲しくて。
最近、準備でろくに寝ていなかった朝倉は、本当に、どこまでも疲れていた。
糸が切れたように、倒れる。
そして、倒れて、ごめんごめんごめんと言いながら泣いた。
そんな時。
「おぉ若人、誰かと思えば朝倉君じゃない」
女の声。
朝倉、うぇ!?という奇妙な声を出してがばっと飛び起きながら、
「なななな、山吹さんっ!」
目の前の人物を確認する。
確かにこの藩の技族、山吹 弓美(やまぶき ゆみ)だった。
しかも、いつの間にか地面に風呂敷を広げ、隣に座って水筒でお茶をすすっている。
「え、う、あ、そ、そう言えば、さっきも会議室にいなかったですけど、こ、こんなとこで何をしてやがりますか」
「意味不明擬似敬語になってるわよ」
「…うわぁ本物だ…」
どういう納得の仕方なのか全く分からないが。
「ま、ちょっとI=Dのことで色々あってね。外出から帰ってきてみれば、いつもはけらけら笑ってる君が、珍しく泣いてるじゃない。わたしも驚いたわよ」
「べ、別に泣いてなんかいませんよ…」
「ふぅん?いいけどね、どうでも。というか、理由が想像出来るから」
そう言って、ずいっと水筒を差し出してくる。
「まぁ座りなさい。お茶でも飲んで、少し落ち着くといい」
ぽんぽん、と自分の隣の地面を叩く。
「は、はぁ…」
良く分からないまま腰をおろす朝倉。
「実はね、さっき摂政の関君から連絡あって。朝倉さんをお願いします会ったら何とかして下さいっ…て言ってたわよ?」
「言ってたわよ?……って、それ僕に言ってどうするんですか。普通言わんでしょう」
「あら、別に隠そうという気なんてないから」
「隠しましょうよ」

「――――だって、それだけ心配されてるってことでしょ?」

朝倉は言葉が詰まった。
さらっと出た言葉に、何と反応すればいいかわからなかったのだ。
「何目を点にしてるのよ。当たり前でしょう?」
あくまでさらっと言う。本当に、当然の中の当然のように。
「あぁそう、今日外出たついでに、子供達から皆に寄せ書き預かってたの。それも見せようかと思ってね。これは士気上がるわよー?」
笑顔でそう言って、正方形の封筒を取り出し、朝倉に渡す。
「君が一番最初に見なさいな。んじゃー私は会議室に行くから、気分が向いたら来なさいね」
風呂敷を軽く畳みつつ会議室の方向へ向かっていく山吹。

振り向かずに軽く手を振る山吹を呆然と眺めて、はっとして我に戻り、封筒を開く。
出てきた寄せ書きの中心には、こう書かれていた。

――――勝てます!!――

「私達の分まで頑張って下さい!」
「絶対死んじゃだめです!」
「お祭り騒ぎですね。辛い時こそ笑顔で戦場へ」
「いつまでも、いつまでも、祈っています」
「大人になったら、俺、絶対恩返しするから!」
「サーチ&デストロイ…」
「負けないで!生きて帰ってきて!」
…………etc。

あぁ。そうか。そうなのか。

ふと、理解した。

別に戦争が好きなんじゃない。皆、この藩が好きなんだ。カーニバルを忘れるほど。

朝倉が、そう思うには、これは十分だった。
そして、この男、また泣いた。
今度は、ありがとうありがとうありがとう、そう言い続けて泣いた。


「え~藩国所属、朝倉 景光、ただいま戻りました」
と、朝倉。
「遅い」
厳格な口調、しかし顔は笑っている藩王。
「ま、戻って来たんだから良いんじゃない?」
にやり、と、山吹。
朝倉は、これ以上ないという風な満足そうな顔で、こう言った。

「……さて――――笑顔を守りましょうか!」




「いきなり勝手に仕切るなよ」
「相変わらず調子が良いわね、朝倉君」
この二人に言われるとぐぅの音も出ない。


(著:朝倉景光(ふくすい))

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